2005年12月25日

昨日はある夕食会でレバノン人の医学生といろいろ話をして、面白かった。私が関心を持っているハリリ首相暗殺事件について、いろいろ聞くことができた。

レバノンの人口の65%がイスラム教徒で、35%がキリスト教徒。暗殺されたハリリ氏はイスラム教徒だったが、閣僚にキリスト教徒を採用するなど、比較的宗教間のバランスを取ろうとしていた。暗殺後は、キリスト教徒も圧倒的に息子を支持するようになった。息子は英国で学んでいるので、父親よりも民主的な政治家になることが期待されている。暗殺されたハリリはレバノン人だが、若い頃にサウジアラビアへ行って建設会社を興し、政府の開発プロジェクトを請け負って、莫大な財をなした。さらにサウジアラビアの王家と密接な関係にあり、外国人としてサウジアラビア国籍を取得した唯一の外国人と言われる。したがって、ハリリは二重国籍だった。現在もサウジアラビアは、レバノンに経済支援を約束している。ハリリはフランスのシラク大統領など欧州の政治家にも多額の選挙資金を供与していたとされる。

レバノンでは政府だけでなく、大手企業にもシリアのシンパが送り込まれていたが、ハリリ暗殺後の「革命」で、次々に更迭されるか、逮捕されている。国連の依頼で事件を捜査しているドイツの検察官メーリスは、レバノン人の間では、絶大な人気と支持を集めている。ハリリ暗殺に関与していたと見られるシリアの官僚が執務室で自殺した事件があったが、これはこの官僚が捜査に協力しようとしたために、シリア政府に殺されたものと見られている。フランスのフィガロ紙によると、シリアはレバノンから150億ドルにのぼる資金を過去に吸い上げて、レバノンを事実上の植民地にしていた。しかもこの資金は行方がわからなくなっており、アサド家が着服したものと見られている。

アサドの息子は、西側の教育を受けたために一見オープンな印象を与えるが、実は権力がない「象徴」にすぎず、実権を握っているのは、軍や秘密警察の幹部ら。アサドの父親はモスレム同胞団(スンニ派)を激しく弾圧したことで知られているが、現在中東地域では、アサド政権が弱体化した場合、モスレム同胞団が蜂起したりテロを起こしたりして、混乱を生むのではないかと懸念されている。アル・カイダやビン・ラディンはモスレム同胞団の影響を強く受けている。現在イラクでテロ攻撃を繰り返している外国勢力は、主にシリアの軍事キャンプで訓練を受けて、イラクに侵入しているものと見られている。

レバノン人はモスレム、キリスト教徒を問わず、イスラエルを嫌っている。その最大の理由は、イスラエルのレバノン侵攻である。

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フランスでの連続放火事件の後、政府は郊外のスラムの状況を改善するような対策を何もとっていない。我々レバノン人は、フランス人から歴史的な関係で一目置かれているが、モロッコ人やアルジェリア人は激しい差別にさらされている。フランス人も私がレバノン人とわかると、態度を一変させる。私の働いている病院で、こんなエピソードがあった。優秀で学位も持っているアルジェリア人が、病院に何回CVを送っても採用されない。そこでアル・モハメドという名前をアレックスという名前に変えて、同じ履歴書を送ったところ、途端に採用された。フランスには差別禁止法があるが、「自由・平等・博愛」なんて絵空事だ。